中国人の子供がやってはいけないことがあります。
それは「股の下をくぐる」ということ。
もちろん日本でも、他人の股の下をくぐることは良いことではありません。
場合によっては屈辱的な印象をともなうこともあるでしょう。
ただ中国では、日本人が思い描くよりももっと強い嫌悪感がともなっているようです。
中国の人は「股の下をくぐる」ことを極端に嫌がります。
それは日本人が想像する以上のレベルです。
先日も、2歳の子どもが走り回って遊びながら、私の股の下をくぐろうとしました。
それを見ていた義理の母(中国人)が、「それはやっちゃダメよ」と柔らかにたしなめたことがありました。
この注意はー私の経験的にというこではありますがー珍しいことです。
一般的には中国社会の方が「NG事項」が少ない、と個人的には感じています。
日本のほうが「○○がダメ」「△△はしちゃダメ」といった“決まりごと”が多い。
そのせいなのか、「それはあかんでしょ!」とツッコミを入れたくなるようなことを子どもがやっていても、中国では平気でスルーする親が多い印象があります。
さらに、中国人というのは全体として子どもに甘い傾向があります。
子どもだから何をやってもOKという雰囲気が強いのです。
それでも、股の下だけは子どもにくぐらせない。
子供が親の周りをはしゃいでいて、股の下をくぐろうとすると、急に真面目な表情になって「それはダメ」と言う。
そんな場面を日常でも見かけることがあります。
それだけ強い嫌悪感・拒否感があるのだろうと想像します。
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これに関して少し苦い思い出があります。
妻(中国人)とその同僚たち数人と、一緒に飲みにいったときの話です。
全員20代の若い雰囲気のなかで、王様ゲーム的なものが始まりました。
細かいことは忘れましたが、何か勝ち負けが決まるゲームをして、負けた人が勝った人の言いなりになるという感じだったと思います。
男女の心をくすぐるような多少きわどい“命令”もあったように記憶しているのですが、自分が王様になったときの印象がより強く残っています。
私は、「股の下をくぐってワンワンと叫ぶ」という“命令”を出したのです。
特に深い意味を込めたわけではなく、なんとなく思いついて、というかできるだけ無難な命令として言ってみたのです。
今となってはこれはNGと分かりますが、日本人的感覚からいえば、その場の雰囲気を鑑みてもそこまでNGな命令ではありませんでした。
具体例は覚えていないのですが、日本人的にはもっときわどい命令も飛び交っていたように思います。
その頃はまだ中国語もうまく話せず、自分の言いたいことは半ばゼスチャーで伝えることも多くありました。
それで言葉半分、ゼスチャー半分で伝えるのですが、なぜか反応がよくありません。
場が凍りついたというような印象はなく、むしろ和やかに談笑しているように見えるものの、誰も王様である私の命令に従おうとしないのです。
まるで誰も私の言っていることを聞いていないかのよう。
結局、誰も股の下をくぐらないままーそして私は状況をよく掴めないままー、次の回に移っていったのでした。
当時は、「私の中国語が下手すぎて意味が通じなかったのかな」「やっぱり日本人が命令するというのはよくないのかな」と酔った頭でぼんやりと考えましたが、どうもそうではなかったようです。
なぜ、股の下をくぐることがそこまでよくないのか、という点についてはあまり詳しく分かりません。
少なくとも中国によくありがちな故事や具体的な起源といったものはないようです。
股くぐりの故事といえば、「韓信の股くぐり」という故事はあります。
これは「大きな志を抱く者は屈辱にもよく耐える」という意味で、かなり以前から股くぐりは屈辱の動作だったようです。
股くぐりがダメな理由は、おそらく日本人以上に面子を大事にする中国人の気質が関係しているのだろうと思います。
股の下をくぐるのは犬や家畜などの畜生だけ。
犬や家畜は、人間から餌を与えられ、飼われているものの象徴。
だから、股の下をくぐることは、他人の言いなりになるような存在であることを示し、面子が丸つぶれになる行為、と考えられているのでしょう。
両膝立ちをすることさえ、屈辱の姿勢として忌避されるのが中国社会です。
ましてハイハイして股の下を通るとなればなおさらなのでしょう。
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あえて日本人でたとえれば、「土下座」に近いのかもしれません。
ただ、土下座よりももっと「屈辱的な相手に不本意に屈する」というイメージが伴っているようです。
その背景には、面子を重視するという文化的遺伝子ともいうべき行動規範が横たわっているのかもしれません。
明文化されない行動規範だからこそ、なぜそれがダメなのか、当人には説明することが難しい。
私が王様として“命令”したときに、誰もなんの反応も示さなかったのは、なぜそれがダメなのか、うまく説明できなかっただけなのかもしれません。